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編集 |
| 甲南病院 眼科・副院長 |
| 井上 正則 先生 |
| も く じ |
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あれ〜? 網膜動脈閉塞症? 前の号の網膜静脈閉塞症と似ている名前だね。「静脈」っていう文字が「動脈」に変わるだけで、いったいどんな違いがあるのかしら。心臓から送り出された新しい血液が流れているのが動脈で、全身に行き渡った後の血液が心臓に戻るときに通るのが静脈だってことは、アイも知っているけど… |
●網膜動脈閉塞症とは
網膜動脈閉塞〈へいそく〉症とは、網膜に血液を送っている動脈が詰まり、網膜の細胞への血流が途絶えてしまう病気です。細胞が活動するために必要な酸素や栄養は、血液によって供給されていますので、血流が途絶えると、間もなくその箇所から先の細胞は死んでしまいます。
血流が途絶えることで起きる病気としては、心筋梗塞や脳梗塞がよく知られていますが、網膜がこれらの病気と同じ状態になるのが網膜動脈閉塞症です。網膜は眼球の内側に張り巡らされている膜で、瞳から入ってくる光の情報を感知する神経組織ですから、網膜細胞が死んでしまうと光を感知できなくなり、視覚が失われてしまいます。
網膜静脈閉塞症の場合は、血液自体は網膜に届いているため、網膜細胞がすぐに死んでしまうことはないのですが、網膜動脈閉塞症が発症すると、網膜の細胞が壊死する危険にさらされます。この点が両者の大きな違いです。
●動脈硬化や血管の炎症が原因で発症
網膜動脈が閉塞する原因は、大きく分けると三つあります。
ひとつは、網膜動脈に動脈硬化※1が起きて血管の内径が狭くなっている状態で、血圧の変動などをきっかけとして血栓〈けっせん〉(血液の固まり)が形成されること。ふたつめは、網膜動脈よりも心臓に近い部位の血管に動脈硬化が起きていて、なにかの拍子にその血管内の栓子〈せんし〉(血液や脂肪などの固まり)が血管内壁から剥がれ、網膜動脈内に付着することです。三番めの原因は、網膜動脈に炎症や痙攣が起きたり、あるいは血液成分や血流に変化が起きて、血液の供給が途絶えることです。
三つの原因のうち最初のふたつは、ともに動脈硬化が基本にあります。ですから、動脈硬化を招きやすい高血圧や糖尿病などの病気があったり、たばこを吸う人は、網膜動脈閉塞症の危険性が高いといえます。
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| 網膜中心動脈閉塞症 閉塞直後(左の写真)では、網膜動脈の狭細化、視神経乳頭周囲の分節状血柱(血管が所々でとぎれているように見える)、網膜の白濁、浮腫が起きています。やがて網膜には強い浮腫性混濁が現れますが(右の写真)、黄斑部には網膜内層浮腫がないので、cherry red spotが見られます。 | |
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| 網膜動脈分枝閉塞症 網膜上耳側動脈(写真 〈左眼〉では右上に向かっている動脈)が閉塞し、支配領域に虚血性網膜混濁と小出血が起きていますが、黄斑部は冒されていません。 |
中心動脈閉塞と動脈分枝閉塞の発症の比率は、ほぼ半分半分です。
このふたつ以外にも、特殊なケースとして、毛様〈もうよう〉網膜動脈閉塞症があります。通常、網膜の血流は網膜中心動脈が担っているのですが、まれに、本来は脈絡膜の血流を担っている動脈が黄斑の血流を司っていることがあり、この血管を毛様網膜動脈といいます。
この血管の閉塞によって視力が低下してしまうのが毛様網膜動脈閉塞症です。反対に、そういう循環構造の人に網膜中心動脈閉塞が起きたとしても、黄斑部は障害されませんので、視力に影響は現れません。
いずれのタイプでも、大半は発症するまで自覚症状は少なく、突然、視力低下・視野欠損が起きます。ただし、ときには発症前のある時期、網膜の瞬間的な虚血によって、ほんの数秒間だけ目の前が暗く感じる一過性黒内障〈こくないしょう〉や軽度の頭痛、目の奥の痛みを自覚することもあります。
●できる限り速やかな治療が重要
閉塞した網膜動脈は、治療しなくてもやがて血流が再開します。しかし、網膜の神経細胞が虚血状態に耐えられる時間は、長くても1時間ほどしかありません。この時間内に動脈が再疎通〈そつう〉しなければ、その後で血流が戻っても、もう神経細胞は機能してくれません。つまり、治療は緊急を要します。
ところが網膜動脈閉塞症は、例えば心筋梗塞の胸痛発作のような強い痛みなどの前駆症状に乏しいため、ほとんどの人は急に目が見えなくなっても、時間を争う緊急な事態だとは認識できません。眼科受診までに数時間から数日経過してしまい、結果的に多くのケースで高度の視力障害が残ってしまいます。
この病気は眼科での救急疾患のひとつです。血流を少しでも早く再開させることができれば、より高い治療効果が得られます。眼球マッサージ※3に並行して、心筋梗塞の発作時に使われるニトログリセリンなどの亜硝酸〈あしょうさん〉薬や血栓溶解薬、網膜循環改善薬(カリジノゲナーゼ)などを使用します。さらに、眼圧※4を下げるため、房水〈ぼうすい〉を抜く手術をしたり、低酸素状態を改善するため、高圧酸素療法を行うこともあります。
このような治療によって、視力回復の可能性は決してゼロではなく、なかには中心動脈閉塞でも正常近くまで回復する人もいます。最終的にどの程度の視力になるかは、発症時の血管の閉塞の程度と、発症から治療開始までに要した時間の長短が左右します。
ウン! 話の途中は、網膜動脈閉塞症が起きたらもう一巻の終りって感じで少し怖かったけど、やっぱりそんなことはないよね。みんなも今の視力を守るために、ちゃんと検査と治療を続けていってネ |
![]() 網膜動脈閉塞症と眼虚血症候群動脈硬化が起きると、網膜動脈の閉塞だけでなくて、眼球全体に血液が十分に行かなくなることもあるらしいヨ
その急性の病状としては、栓子による網膜動脈閉塞症や視神経の栄養血管の閉塞があり、慢性的な影響としては、網膜の出血や浮腫(低循環網膜症※5)、虹彩ルベオーシス、血管新生緑内障※6を引き起こしたりします。眼虚血症候群は眼球全体の血流が慢性的に低下している状態ですから、網膜や脈絡膜といった眼底の変化だけでなく、眼球の前部に虹彩ルベオーシスが起こりやすいのです。 実際に眼虚血症候群の患者さんでは、眼底血圧※7の低下、蛍光眼底造影検査での腕-網膜循環時間の延長、内頸動脈・眼動脈のカラードプラー検査での血流量(速度)の低下などによって、眼球全体の血流低下が裏付けられます。眼虚血症候群を早い段階で把握できれば、網膜動脈閉塞症の発症や虹彩ルベオーシスの発生前に、予防的な治療を行うことが可能になります。
頸動脈や眼動脈の狭窄〈きょうさく〉や閉塞により、眼底の血流が慢性的に悪くなって起こる網膜症です。毛細血管瘤〈りゅう〉、点状・しみ状の出血、網膜の浮腫や混濁が現れます。 ※6 虹彩ルベオーシス、血管新生緑内障 血流低下により網膜や虹彩が低酸素状態になると、異常な新生血管が発生します。虹彩に発生した新生血管を虹彩ルベオーシスといいます。血管新生緑内障は、虹彩ルベオーシスにより房水の流出経路である隅角〈ぐうかく〉が癒着〈ゆちゃく〉して眼圧が上昇する緑内障で、治療が難しい病気です。 ※7 眼底血圧 網膜動脈レベルの血圧。通常は腕で測る血圧の2分の1ぐらいの値です。眼球内の血流が低下していると、眼底血圧は低くなります。眼底血圧があまり低すぎると、網膜血管は障害されて、低循環網膜症が生じます。 |