目と健康シリーズ No.23

Eye & Health
 


編集
昭和大学医学部眼科教授
稲 富 誠 先生

特集:目の外傷


 

も く じ

目のけがの応急手当て

 それでは最初に、目をけがした場合の一般的な対処法をお話しします。なお、症状が目以外にも及ぶような場合には、ここに示す内容にとらわれず、すぐに救急外来を受診するか救急車を呼んでください。

A. 液体や粉末状のものが目に入ったとき
例)洗剤、漂白剤、カビとり剤、接着剤、ヘアカラー、石灰(白線引き用など)、セメント、薬品など
(1) 直ちに水で十分に洗眼する
 なによりもすぐに目を洗うことです。最低10分以上、蛇口の水やヤカンに汲んだ水を目に直接かけるか、洗面器に張った水で目をよく洗ってください。目をつぶっていては効果がないので、痛くてもがまんして目をあけて洗眼してください。
 この間、目をこすってはいけません。
(2) 近くの眼科医に連絡をとる
 洗眼の開始とともに、周囲の人が(1人の場合は自分で)近くの眼科に電話をして状況を説明し、指示を受けてください。
(3) 眼科を受診
 洗眼が済んだらすぐに、連絡をとった眼科医や眼科救急外来を受診してください。

B. 固形物が目に入ったとき
眼球や目の回りを切ったり刺したとき
例)なにかの作業中に鉄片、木片、プラスチック片が飛んできて目に入った。カッターで目を傷つけた。針が目に刺さった
(1) 付着物を水で洗い流す
 目の表面や周囲によごれ(例えば泥)がついている場合は、すぐに水でそれを洗い落とします。ただし
のケースほど長時間続ける必要はありません。また、眼球に大きな傷がある場合は無理に目を開かずに、軽くよごれをとってください。
 この間、目を押さえつけてはいけません。出血している場合は、きれいなタオルやティッシュなどをまぶたの上から軽く当ててください。
 付着物がない場合はすぐに (2) へ。
(2) 眼科医に連絡をとって受診する
 近くの眼科に電話をして状況を説明してください。応急処置の指示を受け、それが済んだら直ちに受診してください。

C. 眼球や目の回りを打撲したとき
例)球技のボールが目に当たった、格闘技中の事故
視力低下や視野の異常、眼痛などの自覚症状がある→眼科救急外来を受診
これといった自覚症状はない→念のため眼科を受診し精密検査を受ける

D. 理由は思い当たらないが目が痛いとき
視力低下や視野の異常、または頭痛や吐き気などを伴う→直ちに眼科を受診
眼痛以外の症状はない→眼科を受診

 

■受診する際に医師に伝えるポイント■

 一刻を争う状況のなかで正確な診断・的確な治療を素早く行うために、以下のような事項を眼科医に伝えるように努めてください。

□できるだけ詳しい受傷時の状況
 目に物が入った場合、なにがどの程度入ったのか
打撲の場合は当たった物(ボールであればその種類〈野球ボールかサッカーボールかなど〉、固さ、飛んできた方角・スピード)、当たった瞬間の姿勢
格闘技の場合は相手のどの部分が、どのような動きのなかで、どこにあたったのか
□何分前に受傷したのか
□メガネやコンタクトレンズをしていたか
□どのような応急手当てをしたか
目に洗剤や薬品などが入った場合は、それがなにかわかるもの(容器や説明書)を持参してください。固形物の場合、破片が残っていれば、それを持参してください。

 

的確な初期治療までのスピードが命〈いのち〉

 さて、ここまで緊急時の応急手当てを大急ぎで解説してきましたので、ここからは目のけが「眼外傷」について、腰を落ち着けてお話ししたいと思います。

大切な組織を一瞬で損傷してしまう

 眼球は奥行き24ミリメートル程度の小さな器官です。しかしその小さな眼球には、物を見るうえで欠かせないいくつもの組織が精巧に組み込まれています。それらのなかには、いったん損傷すると再生しなかったり、再生しても元のようには働かない組織もあります。
 皮膚をけがした場合は、たとえ傷あとが残るとしても、機能的な問題はなく治ることが多いですが、目に限っては以上の理由で、そうもいかないことがあるのです。しかも、例えばなにかが刺さった場合に、大切な複数の組織をいっぺんに壊してしまうこともあるなど、一つのトラブルが多大な影響を及ぼすことが少なくありません。

自覚症状が軽くても必ず診察を受ける

 眼外傷の治療で大切なことは、受傷後に可能な限り早く正しい応急手当てを施すことです。手当てを開始するまでの1分1秒の差が、視機能を大きく左右することも珍しくありません。
 症状が軽いからといって診察を受けずに放置していると、治療のタイミングを逃して、取り返しのつかないことになりかねません。片方の目に異常があっても、ふだんは両目で物を見ているので、視力低下や視野の異常に気付かないことがあります。ですから自覚症状は、片目をふさいで必ず左右別々にチェックしてください。

救急治療とは、損傷箇所の修復と感染防止

 

■眼外傷の検査■

 的確な治療には、けがの状態を正しく把握するための検査が欠かせません。しかし、検査に時間をとられて治療が遅れてしまっては元も子もないので、治療を進めながら必要な検査を並行して行うことになります。視力や視野・眼圧〈がんあつ〉測定、顕微鏡検査など基本的な検査のほか、X線やCT・超音波などの画像検査が、骨折の診断や出血のために内部をよく観察できない状況での診断に、しばしば威力を発揮します。
 

眼窩底骨折のCT写真(矢印が骨折部。「部位別にみる眼外傷/眼窩」の項参照)
 
 眼外傷ではまず、損傷した組織を修復したり、入り込んだ異物を取り出す緊急治療をします。傷のある場合には同時に抗生物質などを十分に使って、細菌やウイルスに感染しないよう厳重に注意します。
 重度の外傷の場合、まずこのような救急治療を行い、しばらく経過し状態が安定してから、もう一度手術を行って組織をきちんと修復し、視機能の回復を図る場合も多くあります。

部位別にみる眼外傷
(必要に応じて、
このシリーズのNo.1をご参照ください)

角膜〈かくまく〉・結膜〈けつまく〉

 角膜〈かくまく〉は黒目の部分の透明の膜で、眼球内部と外部とを隔てるとともに、光を屈折させるレンズとしての役割をもっています。結膜〈けつまく〉は眼球の白目の部分とまぶたの裏側に広がっている膜で、白目の表面を覆っています
受傷の原因 なにかの液体が目にかかる、固形物が飛んできて目に入る、刃物で切る、物を突き刺す、ペットに引っかかれる、コンタクトレンズの不適切な使用、ゴーグルをせずにスキーをしたあとなどの光線外傷、打撲、ほか。
症状・経過 強い痛みを生じます。組織が再生されれば痛みはとれますが、再生の過程で角膜の表面が凸凹になったり濁りを生じると、視力が低下します。また角膜を貫通した場合、房水
※1〈ぼうすい〉が外に流れ出てしまい、眼圧※2〈がんあつ〉が低下します。このほか、瞼〈けん〉結膜と球結膜のすき間に異物が入り込んでしまったり、結膜下出血などがよく起こります。
角膜異物(鉄粉)
治療 薬品や化学物質などによる外傷は、なによりもまず十分に洗眼することが大切です。とくにアルカリ性のものは組織を溶かしながら内部へ侵入していくので、受傷直後の十分な洗眼が予後を決めるといっても過言ではありません。物が刺さった場合はそれを除去し、深い切り傷や刺し傷は縫合〈ほうごう〉します。救急治療後は治療用のコンタクトレンズを装着し、角膜が再生するのを待ちます。角膜の濁りが強く残った場合は、角膜移植を検討します。なお、打撲などによる結膜下出血は、ふつう時間がたてば自然に出血が引いて治ります。

水晶体〈すいしょうたい〉・毛様体〈もうようたい〉・虹彩〈こうさい〉

 水晶体〈すいしょうたい〉は透明で弾力性のあるレンズです。水晶体の周囲を毛様体小体〈もうようたいしょうたい〉が取り囲んでおり、これは毛様体につながっています。毛様体筋の力で毛様体小体がゆるんだり緊張することにより水晶体の厚みが変わり、網膜〈もうまく〉にピントを合わせています。毛様体は房水の産生も担っています。虹彩〈こうさい〉は水晶体の手前に輪状に広がっている組織で、中央の穴「瞳孔〈どうこう〉(ひとみ)」の大きさを変化させ、周囲の明るさに応じて眼球内に入る光の量を調節するという、カメラの絞りの役目をもっています。
受傷の原因 固形物が飛んできて目に入る、打撲、物を突き刺す、ほか。
症状・経過 虹彩や毛様体からの出血で前房〈ぜんぼう〉(角膜と虹彩の間のスペース)が濁ってしまう前房出血や、水晶体の位置がずれてしまったり、水晶体が濁る外傷性白内障が生じて視力が低下します。また、隅角〈ぐうかく〉(角膜外縁部の裏側と虹彩の間のすき間。房水の排出口)が損傷されると、高眼圧や低眼圧が起きることもあります。
治療 入り込んだ異物を取り出したり、損傷した虹彩や毛様体を修復する手術を行います。水晶体の位置のずれや白内障に対しては、眼内レンズに置き換える手術で視力回復を図ります。前房内への出血は通常、数日で血液が吸収されて濁りは消えます。しかし血液が長く引かない場合は角膜に色がついてしまい、出血が引いても視力が回復しなくなる可能性があるので、前房を洗浄する手術を行います。

網膜〈もうまく〉・硝子体〈しょうしたい〉

 網膜は眼底に広がっている視細胞を含む大切な組織で、カメラのフィルムに該当します。硝子体〈しょうしたい〉は眼球の内部の大部分を占めている無色透明のゼリー状の組織で、眼球のかたちを内側から支えています。硝子体の表面は網膜に接しています。
受傷の原因 固形物が飛んできて目に入る、物を突き刺す、打撲、ほか。
外傷性網膜出血、網膜振盪症
症状・経過 網膜に損傷を生じたり、出血したり、網膜が剥離すると、その部分は光を感知できないので、視野が欠けたり視力が低下します。打撲の場合は網膜にむくみが生じて、その部分に相当する視野が障害されます(網膜振盪〈しんとう〉)。網膜からの出血が網膜上や硝子体内に広がる硝子体出血の場合も、同様の症状が現れます。
治療 手術を行い、濁った硝子体を取り除き、網膜の亀裂や剥離を修復したり、異物がある場合はそれを取り出します。硝子体出血は軽ければ数日から数週間で吸収されますが、重傷のときは硝子体手術
※3を行うこともあります。障害が硝子体出血だけの場合は手術でよくなりますが、網膜に損傷が及んでいる場合は症状が残ることがあります。打撲による網膜振盪症は数カ月で自然に治ることが多いですが、黄斑〈おうはん〉(網膜の眼底中央にあたる部分で、視力がとくに鋭敏な範囲)が障害されると、視力の回復が難しくなります。

強膜〈きょうまく〉・脈絡膜〈みゃくらくまく〉

 強膜〈きょうまく〉は眼球の一番外側の大部分を覆っている厚い丈夫な膜で、眼球内部を保護しています。脈絡膜〈みゃくらくまく〉は強膜と網膜の間にある膜で、血管に富み、網膜の一部に酸素や栄養を供給しています。
強膜裂傷(刺傷)
受傷の原因 物を突き刺す、固形物が飛んできて目に入る、打撲、ほか。
症状・経過 強膜や脈絡膜が受傷したときは他の組織も損傷していることが多く、それによって症状が異なります。強膜を貫通しているときには脈絡膜や硝子体が外に出てきて眼圧が低下したり、重度の場合は眼球が破裂することもあります(強膜裂傷)。
治療 手術によって損傷箇所を縫合し、損傷した硝子体や脈絡膜を切除・修復します。眼球が破裂した場合もできるだけ修復を試みますが、重傷で修復不能のときは、最終的に眼球を摘出することもあります。

まぶた(眼瞼〈がんけん〉

涙小管断裂
受傷の原因 なにかの液体が目にかかる、物が突き刺さる、やけど、刃物で切る、ペットに引っかかれる、打撲、ほか。
症状・経過 まぶたを上げる筋肉(上眼瞼挙筋〈じょうがんけんきょきん〉)が傷つくと目をあけられなくなります(外傷性眼瞼下垂〈がんけんかすい〉)。目頭にある涙小管〈るいしょうかん〉(涙の排出路)が切れる涙小管断裂では、涙があふれて止まらなくなります。
治療 急いで損傷箇所の縫合・形成、涙小管の修復を行います。治癒の過程でまぶたのかたちが変わってくることがありますが、そのときは再手術をします。

眼窩〈がんか〉

眼窩底骨折で右目が上に向かない状態。
物が二つに見えます。        
 眼球が収まっている頭蓋〈ずがい〉骨の凹みを眼窩〈がんか〉といいます。眼球を動かす筋肉、血管、眼球と脳を結ぶ視神経などを保護しています。
受傷の原因 打撲、ほか。
症状・経過 眼窩底の骨が折れる眼窩底骨折では、眼球を動かせなくなり物が二重に見えます。外傷性視神経損傷(眼球から脳へ通じている視神経の損傷。眉毛の耳側の端を打ったときに起こりやすい)では、視力低下や視野欠損、視界が暗くなるといった症状が現れます。
治療 眼窩底骨折は手術を行います。視神経の損傷には、ステロイド薬で炎症を抑えたり、視神経が通っている視神経管という骨を削って、むくんで圧迫されている神経の負担を減らす手術を行います。視神経の障害は時間が経つほど回復が難しくなるので、いずれの治療も早期に行わねばなりません。
 

■子どもの眼外傷■

 子どもはけがをしても、いつどのような状況で受傷したのかはっきりいえません。また視力や視野の異常があっても黙っていることが多く、検査もすんなりとはいきません。しかも視機能の発育段階にあるので、小さなけがでも早く治療しないと、弱視になる可能性があります。このようなことから正確な診断がいっそう大切で、場合によっては、外見は問題なさそうに見えてもいったん入院してもらい、麻酔をして検査することもあります。
 
 

注意が必要な合併症

 外傷の傷そのものは治ったとしても、治療の途中または治ったあとに合併症が起き、視覚障害に至ることが多くあります。合併症の予防・早期発見のため、必ず医師の指示に従って通院を続けるとともに、異常を感じたらすぐに受診してください。
角膜潰瘍〈かいよう〉 角膜にできた傷口から入り込んだ細菌が周囲に広がって潰瘍〈かいよう〉になり、視力が低下します。
外傷性白内障 打撲の衝撃や刺傷などによって水晶体の組織に乱れが生じると、白内障が短期間で発症・進行し視力が低下します。
緑内障 隅角の損傷などで房水の排出経路が塞がれると、高眼圧になって視神経が圧迫される緑内障になり、視野が欠けてきます。
網膜裂孔・網膜剥離 受傷後、網膜に亀裂ができて剥離することがあり、視野の障害、視力低下が起きます。早急な手術が必要です。
黄斑円孔〈えんこう〉 黄斑に外力が及ぶと小さな円孔〈えんこう〉があきます。黄斑は物を見るうえで最も大切な部分なので、視力が低下します。
眼内炎 細菌感染が眼球内部へ及び、重症の炎症を起こすことがあります。細菌にとって眼球内は最適な生存環境なため、病気の進行は早く、治療を急がなければいけません。治療が遅れると失明します。
交感性眼炎 非常にまれですが、片方の眼が裂傷などで、ぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜など)の損傷を受けると、受傷から数カ月〜数年以上あとに、もう一方の眼に炎症が起きることがあります。

 

■治療の経過は千差万別■

 眼外傷の経過は千差万別で、同じケースは一つとしてないといわれます。たとえ全く同じボールが同じように当たっても、受傷の瞬間のほんのわずかな違いが、大きな差異につながるのです。このため視力や視野の予後はケースバイケースで、いちがいに判断することはできません。損傷の程度、受傷から治療開始までに要した時間、合併症の有無などによって、視機能の予後が大きく左右されます。
 
 


シリーズ監修:堀 貞夫 先生 (東京女子医科大学眼科教授)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2004年7月発行