リウマチの運動療法と
リハビリテーション

監修
大阪大学医学部 整形外科教授
越智隆弘先生
東京大学医学部 アレルギー・リウマチ内科教授
山本一彦先生
編集
国立伊東温泉病院名誉院長/福原病院顧問
橋本明先生




リハビリテーションはなぜ重要か

 リハビリテーションとは、病気や事故で失った身体機能を取り戻し、社会復帰も視野に入れた、可能な限り元の状態に近い健康状態を回復するための医療を意味します。
 痛みがリウマチ患者さんの第一の苦しみであることは間違いありませんが、実はそれ以上に患者さんを苦しめる辛いことがあります。それが肢体不自由です。病院に通っているリウマチ患者さんの中には、治療を続けているにもかかわらず、年々からだが不自由になってくるのを実感されている方も多いことと思います。このままではいつか近い将来、車椅子や寝たきりの身体障害者になるのではというのがリウマチ患者さんの誰もが抱える不安の1 つです。痛みは薬で何とかなります。しかし肢体不自由は薬では回復できないこともあります。適切な機能再建手術とリハビリテーションにより、日常生活に必要な機能を保つことができます。したがって適切な治療法が行われた上で、歩く訓練をするのが一番です。このように、運動(歩く)訓練をすることによって、失われた運動(歩行)機能を取り戻すことがリハビリテーションの狙いであり、リハビリテーションは薬物療法と並んで、リウマチ治療における車の両輪のように、欠くことのできない重要な医療といえます。



運動療法

 運動療法の目的は、関節可動域(関節の動く範囲)の保持、筋力の増強、いたんだ関節の修復の3 つに要約されます。

■リウマチ体操
 リウマチ患者さんの運動機能を回復するためには運動訓練(療法)が必要です。そして、もっとも身近な運動療法としては、こわばりをとり関節可動域を保持する目的のリウマチ体操があります。国立伊東温泉病院で行っているリウマチ体操を参考に示します。医師の指導を受けながら無理のない体操を行ってください。



■関節可動域の保持
 リウマチではおかされた関節の運動範囲が狭くなる傾向にあります。患者さんは痛む関節をなるべく動かさないようにするため、その傾向はますます強まり、気がついたときには関節の可動域は健康人の1/2 にも1/3 にも狭まっていたりします。日に数回は関節の動く範囲いっぱいまで関節を曲げ伸ばしして、可動域が狭くなっていくのを防がなければなりません。イラストを参考に毎日続けてください。リウマチでは関節が曲がって伸びなくなる傾向が強いため、なるべく関節を伸ばすほう(伸展:ストレッチ)に力を入れて訓練を行うよう心がけてください。家庭でできるストレッチングとして手指、上肢、下肢、からだ全体それぞれの例を紹介します。しかしながら、可動域訓練は大切ですが、運動だけでおかされた関節の可動域が狭まっていくのを防いだり、狭くなった可動域を広げることは困難な場合もあります。痛みや腫れを軽減するために関節変形が始まる早期の段階で、関節内にステロイドを注射して関節の炎症を抑えることも1 つの方法です。可動域が狭まると最初は関節内ステロイド注射などで元に戻りますが、狭まったままに放置された期間が長ければ長いほど、元に戻らなくなります。

■筋力の増強
 リウマチでは発病の早い時期でも炎症が強いと著しい筋力低下がみられることがあります。そのまま動かさないでいると発病後10 年を過ぎると、筋力は平均して健康人の半分以下になることも懸念されます。
 筋力の低下の原因の第一は炎症の存在ですが、病気が長引くにつれ、痛みのため動かさない、あるいは力を入れられない場合で関節可動域の縮小のため筋の完全な収縮ができないなどで、運動ができないか、しないことによって起こるからだの組織の萎縮も筋力低下の大きな原因となります。
 関節は想像以上に大きな力がかかる器官です。“歩く”という動作を考えてみても、爪先で地面を蹴るとき、また踵が地面につくとき、片方の膝関節には体重の2 倍から3 倍の力がかかり、早足で歩いたり走ったりするときは、3 倍から5 倍の力がかかります。
 人は年間200 万歩歩くといわれますが、このような大きな外力が短い間隔で衝撃的に繰り返しかかっても膝関節が壊れないのは、関節軟骨のクッションとしての働きや関節面をなめらかにする関節液の働きのほかに、関節を動かす多数の筋肉の円滑ですばやい筋運動が衝撃を分散・吸収して関節を大きな外力から守っているためと考えられます。
 つまり、道を歩いていて何かにつまずいたとき、瞬間的に脚を踏みかえて姿勢を立て直す動作など、反射的に行われる筋運動が関節に対する衝撃を弱めているのです。したがって筋力を強化することが関節を守ることにつながるのです。
 筋力は骨の強さにも深く関わり、力をかけたりゆるめたりすることによって骨の構造と(生理)機能が正常に保たれています。そして筋力が低下するとともに骨もどんどん弱くなってしまいます。絶対安静の状態では、筋力は1 日5 %の割合で低下し、骨塩量(カルシウム量)も週当たり0.9 %の割合で失われるとされています。
 筋力を増やすもっとも有効な手段は、スポーツ選手がハードトレーニングで筋力を強化し、記録を伸ばしていくのと同じ理屈で、力いっぱい筋肉を収縮させ、これを繰り返す訓練です。たとえば、関節を動かさずに筋肉を収縮させる「等尺性筋収縮(とうしゃくせいきんしゅうしゅく)」を中心とした筋力増強訓練で、膝の下にまくらを入れ、まくらを押しつぶすように力いっぱい膝を伸ばす運動などがこれに当たります(下図のイラスト中段、下肢のストレッチング参照)。楽な訓練では筋力低下は防げても、筋力が増えるところまではいきません。
 しかしリウマチ患者さんが病気の活動期に無理をして筋力増強のためのハードトレーニングをやったら、関節をいためてしまうこともありますから、焦らず病気の寛解期までは軽い運動にとどめておくことも重要です。

■いたんだ関節の修復
 いたんだ関節に“治る力”を引き出すことは、運動療法のもっとも重要な目標であり、もっともむずかしい課題でもあります。いたんだ組織を修復する、すなわち“治る力”を引き出すためには、炎症で弱った軟骨細胞に元気を取り戻してもらわなければならず、そのためには軟骨細胞に十分な酸素や栄養素を補給してやらなければなりません。関節軟骨は血管もリンパ管もない組織で、その新陳代謝に必要な酸素や栄養素は関節を運動させることによって軟骨細胞に届けられる仕組みになっています。
 つまり、関節・骨・筋肉といった運動器は運動しないと駄目になる器官なのです。ただし、ここで重要なことは、いたんだ関節に“治る力”を引き出すために必要な関節運動は、適切な負荷のかかった、痛みを伴わない自然な運動でなければならないということです。無理のない程度の散歩などの運動を毎日続けてください。プールを使った水中歩行訓練もよい方法です。



物理療法

物理療法は、温めたり冷やしたり、電気やマッサージなどの物理的手段を利用した治療法で、昔から痛みやこわばりなど、患者さんの苦痛をやわらげる治療手段として重視されてきました。炎症のため血流量が増え、腫れて熱がある部位は冷やし、動かなくなった関節の周囲組織のように、循環障害による痛みの目立つ部位は温めるようにします。しかし、現在の“運動機能の再建”を重視するリハビリテーションの考え方からは、物理療法は運動療法を効果的に行うための補助的な治療手段と位置づけるのがよいと思われます。温めて痛みを軽くすると同時に無理のない程度の運動を続けるよう努めてください。温湿布などでは、その作用はせいぜい皮下数ミリにしか達せず、からだの深い部分にある関節(股関節など)には影響を及ぼすことはできません。組織の深い部分を温めるためには、超短波や超音波による治療法を用いることがあります。ただし関節に炎症のある場合は、炎症を燃え上がらせる危険があります。温めて局所の不快感があれば中止してください。



温泉療法

 温泉療法は温泉に含まれる化学成分や温泉の温熱効果のほか、温泉地のもつ健康増進作用(気候、空気、森林、海浜などの環境因子)を利用した治療法で、非炎症性のリウマチ性疾患(骨関節症など)の場合には大変有効なリハビリテーションの手段となります。
 ただ、他の温熱療法と同様にリウマチ(慢性関節リウマチ)の活動性の強い時期には、温泉療法が刺激となってリウマチの炎症を燃え上がらせるように働くことがありますので注意してください。



QOLとリハビリテーション

 リウマチの運動療法とリハビリテーションリウマチ患者さんの抱えるさまざまな問題を、単に身体面だけでなく、精神的・社会的側面からも質的・量的に正確に評価し、患者さんのQOL (多面的にみた健康の質)の推移を追うことによって医療を評価しようという試みが行われています。これが健康レベルの評価法で、“階段を登るのは容易か、困難か”といった身体的健康レベル、“痛みは弱いか、強いか”といった感覚的健康レベル、“気分は暗いか、明るいか”といった情緒的健康レベルなど、多面的視野からの質問に答えていただくことにより、患者さんのQOL を示す仕組みになっています。
 この評価法は患者さん側からの医療評価にもなっているわけで、機能障害を取り扱うリハビリテーションの分野では、特にこのような評価法が重視されるようになってきました。



ほっと・たいむ プール療法

 歩かなければ歩けなくなる、といって無理に歩く訓練をすれば、膝が腫れて水がたまることがあります。
 無理に陸上での歩行訓練を続けると、体重がかかったまま膝を曲げ伸ばしするため、関節に治る
力が生まれる前に、関節が壊れるほうにいってしまいます。また、痛い関節をかばって歩くため、関節の曲げ伸ばしのない不自然な歩き方(棒足で歩くなど)になってしまいます。
 それに対して、水中での歩行訓練では水の浮力に支えられて、寝たきり患者さんでも立って歩くことができます。
 膝や足首、股関節などの障害で歩けない患者さんも、水中では痛みなしに歩くことができます。痛みなしで、関節を曲げ伸ばしする自然の歩き方ができて、はじめていたんだ関節に“治る力”が生まれるのです。
 関節の状態がわるくて歩行訓練が困難な患者さんにはプール療法は非常に有効な手段といえます。プールの水温は、運動量の少ないリウマチ患者さんの場合、35 ℃以上が理想です。
 水中歩行をはじめてされる方の場合には、まずプールの中の手すりにつかまり、20 分ぐらいそろそろと歩くことから始めます。だんだんプールに慣れてきたら、手すりを離れてプールの壁に沿って歩きます。慣れるに従って歩幅を広げ、膝を高く上げ、手で強く水をかきながら徐々にスピードを上げていき、時間と距離を増やしていきます。
 水中歩行訓練でもっとも大切なことは“痛くないように歩く”ことです。痛みがあるということは“いためている”ということです。また常に、これ以上やると“やり過ぎ”になるという限度いっぱいの訓練を心がけてください。
 運動訓練で忘れてならないことは“やり過ぎ”は“やり足りない”のと同じくらいわるいということです。自分にもっとも適した運動量を見い出すまで、一歩前進二歩後退の精神で、焦らずじっくりとやっていくことが大切です。