![]() | リウマチの手術療法
監修大阪大学医学部 整形外科教授 越智隆弘先生 東京大学医学部 アレルギー・リウマチ内科教授 山本一彦先生 編集 大阪大学医学部 整形外科教授 越智隆弘先生 |

リウマチはいまだに原因不明といわれています。また、完治させる薬がないのも実状です。約10年前には「リウマチ」と診断されると「寝たきり」を連想した時代もありました。しかし、近年リウマチの治療はずいぶん進歩し、リウマチ患者さんの「寝たきり」はほとんどなくなってきています。以前なら「寝たきり」であったと考えられる重症リウマチの患者さんも歩いて通院しています。正座はできませんが、歩いている姿は病気と思えない方も多いのです。完治させる薬はなくても、薬の使い方が上手になりました。何より手術の技術が進歩しました。10 年前までは、「人工関節は60 歳をすぎてから」といっていましたが、「若くて花開いている今、皆と一緒に歩いて楽しい充実した人生を送ったほうがいいじゃないですか。15 年か20年して、入れた人工関節がゆるんでくれば、そのとき入れ替えればいいじゃないですか」と、若い年代の患者さんにも自信をもってお勧めできる時代になりました。
また、手の手術は以前にはあまり行われませんでした。手は変形してもなんとか使い続けることができると思われていたからです。しかし、患者さんが高齢化するにつれて、手の変形をそのまま放置して、まったく使えない手になってしまう患者さんが増えています。手がこわれてしまわないうちに手術を受けて高齢になっても手を使えるよう考えていただきたいのです。
最近は手術の技術が進歩し、手術に伴う出血も少なく抑えることができるようになりました。手術中に出血した血液はきれいにして、また、自分のからだに戻す方法もあり、輸血も少なくなりました。今回、手術の現状の一端をご紹介します。
リウマチの治療は、まずはじめに痛みの治療を考えます。痛みの原因は、炎症による痛み、関節に重積した滑膜の増殖による痛み、それから関節が破壊された痛み、の3 つに分けることができます。
炎症による痛みの場合は薬物療法や理学療法、リウマチ体操などで対応します。増殖した滑膜による痛みは軽い場合では薬物療法、リハビリで十分ですが、広範囲に増殖している場合には薬物療法や理学療法だけでは対応できませんので、手術療法によって病巣を摘出し痛みや腫れを抑えます。これを滑膜切除術と呼んでいます。また関節の破壊による痛みには薬物療法だけでは抑えきれないので関節の再建手術が必要となります。
リウマチは早期診断と早期治療が現在の流れとなっています。多発の関節の腫れがあって、炎症を示す検査値などが上昇傾向を示している場合、膠原病や感染症でなければリウマチと考えられます。かなり早期にステロイドを用いても腫れがひかない場合には滑膜切除を行って病巣を少なくして、そのあとに免疫抑制薬などの薬物療法を行えばリウマチの完全治癒も可能ではないかというのもリウマチの手術療法のメリットです。超早期という時期がすぎたら、だんだん骨びらんがすすんでいき、リウマチの診断がついてしまいます。
医師はリウマチの長期経過を予測しながら軽症と重症、そして最重症のリウマチ3 病型に分類しています。 軽症のリウマチは関節の破壊の進行が非常にゆっくりで、5 〜6 年ぐらいまで少しずつ進み、それ以降は進みません。破壊は主に手の指や足先や手首などの小さな関節に現れます。発症後15 年ぐらいたっても手指や足趾に変形がありますが、膝や股関節など大きな関節は破壊されません。普通の日常生活が家庭や職場でもできています。約65 %の患者さんが軽症のリウマチです。
軽症のリウマチの場合で痛みや腫れが特定の関節に強く、そのために薬の投与を増やす必要がある患者さんの場合には、滑膜切除が有効です。一度の手術で何年にもわたり有効で、痛みや腫れを少なくすることができますから、薬は通常の投薬量で治療が可能です。その意味では軽症の場合も手術の対象になります。たとえば軽症ですが足の変形で痛くて歩けないという患者さんも、手術によって形を直すこともよいと思います。
膝や股関節が破壊されている重症のリウマチ患者さんは痛くて歩けませんが、骨はしっかりしているので人工関節を入れることによって痛みがとれ、元気な人と同様に歩けるようになります。正座はむずかしいですが、洋式の生活をすれば大きな不自由はありません。リウマチ全体の約30 %の患者さんが重症のリウマチです。
そしてリウマチ全体の約5 %がムチランス型と呼ばれる最重症のリウマチ患者さんです。骨がもろくなっているので、人工関節を入れても、日常生活に注意が必要です。心臓や腎臓などの内臓をいためていることがあり十分な注意が必要です。
重症のリウマチで、薬物療法やリハビリでコントロールできないような関節痛を訴える患者さんの場合には関節がこわれ始めていることがあります。そのようなときには関節の再建をするような手術をしないと痛みはとれません。副作用が出るぐらいまで薬を飲んでも抑えられません。特に最重症のムチランス型といわれている患者さんの場合は機能障害が出てきたら骨がこわれない前にすみやかに手術をすることをお勧めします。
軽症と重症のリウマチの骨のこわれ方は違います。軽症では滑膜増殖による痛みや腫れ、骨のむしばみだけですが、重症では靭帯がゆるんで、亜脱臼や高度な骨粗鬆症を起こしてつぶれています。また、関節の痛み方が明らかに違います。それらを認識しながら手術の適応を考えます。関節がこわれて歩けなくなったとき、軽症の場合は滑膜切除術で、重症の場合は滑膜切除術よりむしろ人工関節置換術や固定術、再建術を行います。
手術をする場合でも、重症か軽症かをある程度イメージして方針を決めることが重要です。また、軽症と重症のリウマチでは手術をするにしても、基本的に考え方が異なります。
軽症のリウマチか、重症のリウマチかを見極めてから手術をするかどうかを決めています。
軽症の患者さんは15 〜20 年経ってもほとんど進行しないのであまり手術をしません。軽症のリウマチの場合でも痛みの訴えが強くて、薬物療法やリハビリでもコントロールできない場合は手術療法を併用します。
重症の患者さんでは症状がどんどん進行して、機能を失ってしまうことがありますので、積極的に手術を勧めています。重症のリウマチでも進行が穏やかな場合は、機能障害が上肢や下肢に出ても患者さんが嫌がれば手術をしません。患者さんから手術の希望が出されたときが手術のタイミングです。最重症のリウマチの場合はそのままにしていると骨がこわれるので機能障害が出たときが手術のタイミングです。
主な手術に滑膜切除術、頸椎の手術、固定術、人工関節置換術があります。
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■滑膜切除術 滑膜切除術は関節破壊の予防にはなりませんが進行のスピードを遅らせたり、痛みや腫れは抑えられます。滑膜切除術が一番有効なのは手首です。腫れ上がって痛みが強い、リウマチの薬だけではコントロールできない手首の腫れに対して滑膜切除をします。次は肘、膝です。一度の滑膜切除術によって何年にもわたって痛みや腫れを抑えますので、薬剤の服用量も少なくすみ、副作用を抑えることができます。抗リウマチ薬でコントロールできないと考えられていた患者さんでも、滑膜切除術で病巣のボリウムを減らすとことによって、通常の抗リウマチ薬で治癒させることも可能です。 | ![]() |
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■頸椎の手術 軽症リウマチの患者さんでもしばしば頸椎の第一番と第二番の間が亜脱臼を起こします。つまり、うつむいた仕事をしていたら、うなじの部分に痛みが出てくるというものです。頸(くび)をカラーなどで保護していても痛みが続く場合には第一番と第二番の頸椎を固定する手術法があります。頸椎の第一番と第二番の間をスクリューネジで止める方法で、有効率も高く最近は世界中で安定した手術として行われ、安心して受けられます。 より重症のリウマチの場合は、頸椎がいろいろなレベルでつぶれたり、ずれたりして、これをそのままにしておくと、上肢、下肢、四肢の麻痺になって歩けなくなり、手足が動かなくなるという状態になります。麻痺が始まれば痛みの除去より頸椎の固定術が必要です。頸椎を固定すれば日常生活は安心ですが、不安定のまま生活していると、急に麻痺がくる患者さんもいます。神経症状か何かの脊髄症状が出始めたら固定術をします。 | ![]() |
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■手首の固定術 手首の固定術をすれば、それ以上は変形が進まないので安定したよい手術です。ただ、固定の角度がむずかしいので、両手のうち片方は少し曲がった形にしておかないといけません。何か持つときなど、どのような角度がよいのかはむずかしく、いったん固定したらそれが適切かどうかわかりませんから、まず 簡単な装具などで固定してみます。そして、患者さんにどの角度が適切か、しばらく経過をみて、具合をきき、確認してから固定術をすることもあります。 | ![]() |
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■人工関節置換術 最近、人工関節置換術が使われます。かなり破壊された手首でも動きが確保されますから、人工関節置換術を使える限り使い、使えなくなったら固定術という方法をとっています。人工関節置換術は、膝、股関節に関しては完全に確立されていて不安なく受けられます。肘、肩にもよい人工関節が作られ機能障害に陥った患者さんにはお勧めできますが、まだ予後は完全にはわかっていません。スワンソン型の人工関節の材料はシリコンです。シリコンは柔軟性があり、そのものが動く形をして製品性能が優れているので、よく使用します。 軽症の場合はあまり人工関節をしませんが、重症の場合は、手がこわれないうちに固定術や人工関節手術を受けることをお勧めします。 | ![]() |
軽症のリウマチ患者さんではほとんど普通の生活ができますし、あまり手術後ということを気にせず生活すればよいと思います。
重症の患者さんの場合には、通常の日常生活を楽しめる苦痛のない範囲内で行うべきです。決して鍛えるということを考えないことです。また手術した関節を大事にしてください。

今まででしたら、整形外科の関節の手術の場合、レントゲン正面像・側面像と2 枚をみながら、痛み方の度合いを想像して手術計画をたてるのですが、最近の外科医療とロボット工学、コンピュータ工学との共同研究によって、「ロボティックシステム」というシステムが開発されました。このシステムは、画像解析でMRI をコンピュータに取り込ませることによって、コンピュータ内で立体画像がそのまま患者さんの関節の状態を描いて、この断面で切れば関節の軟骨の厚さや強度が全部コンピュータの画像に現れてきます。それをみながら手術計画をたてて、手術した結果はどうなるかというシュミレーションを行って手術結果を画像に描出して、「膝がこれくらいまで曲がります。立ち上がるとき、歩くときはこういう姿勢です」と全部コンピュータで予想することができるのです。そのとおりの手術をするために、ナビゲーションという器械を置いて画像をみながら正確な手術ができるシステムができています。それも場所によっては少しの手振れがないほうがよいという箇所もありますが、非常に固いものを削るときや、脊椎の横でさわると麻痺がくるというときなど、ロボットハンドに置き換えて正確な手術が可能となります。
三次元画像の解析からシュミレーション、手術計画、ナビゲーション、ロボットハンドを使うという一連のシステムが、関節外科でも開発が始まっていて、近い将来このシステムによって、どこの病院でも最高レベルの手術が可能となります。しかも正確な手術ですから術後のリハビリ期間も短くてすみます。