高齢者のリウマチ

監修
大阪大学医学部 整形外科教授
越智隆弘先生
東京大学医学部 アレルギーリウマチ学教授
山本一彦先生
編集
大阪大学医学部 整形外科教授
越智隆弘先生




リウマチ発症の年齢

 リウマチの発症はどの年齢にもみられます。15歳未満の発症を小児リウマチ、それ以後の発症を成人発症リウマチと呼んでいます。30〜40歳代が発症のピークで、女性が男性の5〜6倍の発症です。その後徐々に減り、60歳以上で再び明らかに増加傾向になります。この60 歳以後に発症するリウマチを高齢発症リウマチと呼んでいます。



高齢者のリウマチ患者さんの増加

 平成12年5月28日に日本リウマチ友の会創立40周年記念全国大会でリウマチ患者さんの実態を調査した『リウマチ白書』が発行されました。その中に日本リウマチ友の会会員の年齢分布を5年ごとに調べて比較した表があります。
 ここでは30 〜50歳代の患者数の比率は全体に対して徐々に減り、70歳代以上の患者数の比率は徐々に増加しています。これは、高齢になってから発症する高齢発症のリウマチ患者さんがふえていることもありますが、もっとも大きな原因は生活環境がよくなったことに加えて、治療薬や治療法の進歩によって成人発症のリウマチ患者さんが長生きできるようになったことが考えられます。




高齢発症リウマチの特徴

高齢発症のリウマチ患者さんの経過をよくみていると、成人発症のリウマチ患者さんに比べて男性の数が女性の数と大して違わないという特徴がわかります。高齢発症リウマチには後に述べるような特徴もあり、成人発症のリウマチと同じと考えてよいのか疑問がありました。いろいろな研究が行われましたが、高齢発症リウマチ患者さんのDNAパターンが成人発症のリウマチの患者さんのものと少し異なっているという報告もあり、異なった特徴を示すリウマチと考えられています。
 高齢発症リウマチの患者さんは軽症だという意見もあります。高齢発症の患者さんのリウマチ炎症の持続は、成人発症のリウマチ患者さんに比べて明らかに短いので、結果的には比較的軽いといえるようです。
 また、高齢発症リウマチの患者さんは、膝関節が破壊されやすく、歩行障害に陥る例が多いという意見もあります。そのような患者さんの膝の経過をよく調べると、リウマチが発症する以前に膝の傷み(変形性関節症)があり、リウマチが発症した後で急速に膝の破壊が進んでいるようです。
 たとえば、変形性関節症のある患者さんがリウマチを発症したときには、「いつもの関節痛が今回はひどいな」と耐えながら見過ごして何カ月も経ち、病院を受診したときには膝や股関節破壊が進んでしまっていたということがありますので普段の注意が必要です。



高齢のリウマチ患者さんの注意事項

 女性の患者さんには特に大切なことですが、リウマチの患者さんは年齢とともに骨粗鬆症になる傾向が強いのです。食べ物にも気をつけてください。じっとしていると骨はもろくなります。鍛えるというよりも気の向くままにからだを動かして楽しめることをみつけましょう。散歩などもよいのですが、転倒、骨折なども起こしやすいので、足元のわるいところは避けましょう。持ちやすい杖を使うのもよいですね。



高齢者は副作用に注意

 高齢者が病気になったときの一番の問題は薬の副作用です。高齢者は新陳代謝が遅いため、若い人よりも長く薬が体内に残るために副作用が出やすくなります。「痛い」とか「こわばる」などの症状があれば、薬の投与量をふやしたり、新しい薬を追加したりします。すると副作用が出て命を脅かすこともあります。
 副作用の代表的なものに痛み止めによる胃腸障害があります。消炎鎮痛薬による胃・十二指腸障害はどの年齢にも認められる副作用ですが、特に高齢になれば、新陳代謝が低下しているので消化管障害が意外に簡単に発症するうえに、年齢的に体力、抵抗力は低下しているため、副作用が重症になってしまいます。
 普通はからだのどこかがわるくなれば痛みが起きて自分の故障に気づくのですが、消炎鎮痛薬による潰瘍(NSAID潰瘍)の場合には自分自身では腹痛などを感じないままに悪化して、腹膜炎を起こして手遅れになってしまうこともあります。
 「痛い」とか「こわばる」などの症状があっても、簡単に薬の投与量をふやしたり、新しい薬を追加したりすることは危険です。薬によっては減らせない薬もありますが、痛み止めはできるだけ少なくすることが高齢者のリウマチ治療には大切なことです。検査値がよくならないからと、どんどん量をふやすことは危険です。薬に頼りすぎないように気をつけてください。



新しい非ステロイド性抗炎症薬の登場

 近年、副作用が少なく、新陳代謝されやすいよい薬が開発され始めて、高齢者に対する薬物治療の問題点の1 つが減りました。その1つがCOX−2阻害薬と呼ばれる非ステロイド性抗炎症薬です。よく効く薬は両刃の剣のように効果と副作用が並行していましたが、痛みを抑えるがからだに必要な機能はあまり抑えないという非ステロイド性抗炎症薬です。高齢者にも少し安心して痛み止めを処方できるようになりました。しかし、この薬もどんどん量をふやすと危険ですので注意が必要です。



意欲的に日常生活の機能の維持を

 リウマチ患者さんの長年の経過を診ていますと、約1 / 3は、残念ながら重症で脚や腕の機能低下があります。このような患者さんの高齢化を考えるときには、患者さん自身が日常生活機能の維持に熱心でなくてはなりません。薬に頼らないで普段から機能を維持するためにリハビリを続けるというしっかりした気持ちとともに、リハビリでだめなときには再建手術を受けてでも自立しようという強い意識が必要です。リウマチといえば、寝たきりを連想した時代は去り、人工関節手術の発展によって、自立できるという確信をもてる時代となりました。しかしさらに、高齢期に向かうリウマチ患者さんにとって、歩けることとともに手が使えることも必要です。
 一般に、リウマチの患者さんの手がわるくなってもなんとか日常生活ができるというので手術を勧める医師は少ないのです。筆者自身も長年リウマチ患者さんの手の手術をしてきましたが、その中には片手は手術をしてしっかりと使える手を再建しましたが、もう片方の手は患者さんが消極的なので、そのまま再建手術をしないで経過を診た患者さんもいます。ところが、そのなかの何人もが何十年もたって、手術をせずにみていた側の手がまったく使えなくなっていきました。両手とも不自由になると、ひとりで食事ができない、排泄の後始末ができないことが懸念されます。高齢になっても、有意義な生活を楽しむために、手の機能の保持を考えることが大切です。



手術の進歩

 昔に比べて手術はいろいろな段階で大きく進歩しています。昔は頸が動きにくい、また口が開きにくいリウマチ患者さんの麻酔は困難でしたが、今は技術も道具も進歩しました。
 また70歳をすぎた患者さんの麻酔には不安が伴った時代もありましたが、今は80歳代でも不安なく手術ができるようになりました。
 人工関節の材料や形状もずいぶん進歩して何十年も使えるものになってきています。また手術はさらに飛躍的な進歩を遂げようとしています。外科手術の過程でむずかしい手技を、コンピュータ工学やロボット工学の発展によって、正確に行うように、手術ナビゲーションシステムや手術支援ロボットが開発されています。正確な手術手技が行われるように機能するだけでなく他の利点も認められるようになりました。
 たとえば、今までの手術では、手術時にできた血液凝固塊が血液の中を流れて、肺などの重要な血管に詰まることがありました。しかし、これらの新しいシステムにより、そのような危険性も回避できます。また、リハビリも非常に早く始められるようにもなります。



リウマチと地域医療体制

 今までは、ずいぶん長い時間をかけてリウマチ専門医に通院してきましたが、リウマチ患者さんの高齢化を考えて、最近では、地域医療体制が政策的にかえられてきています。何かあれば気軽に相談でき、普段のリウマチ治療をお願いできるかかりつけ医、手足の運動機能を保ち、向上させるための普段からのリハビリをお願いする在宅リハビリ、不自由さが増してきたときなどにお願いする在宅看護、介護など、近くのかかりつけ医を中心とした診療チームであたるシステムができつつあります。そして、かかりつけ医を中心とする地域医療チームで対応できない医療内容になったときは、いわば地域のリウマチセンターともいうべき診療支援施設で対応します。重症度がもとまで回復すると、またかかりつけ医に戻る、というものです。



すばらしいシルバーライフを

 高齢者社会の中で、リウマチ患者数は増加しています。薬に頼らず、明るい気持ちで、意欲と積極性をもって内容のある生活を楽しめる時代になってきました。生き甲斐をもって、その目的に沿う強い意欲と、明るい前向きの気持ちで、すばらしいシルバーライフを楽しんでください。



ほっと・たいむ
   日本リウマチ友の会・全国膠原病友の会と日本リウマチ財団


■日本リウマチ友の会・全国膠原病友の会
 日本のリウマチや膠原病の患者さんが「リウマチや膠原病に関する正しい知識を広め、療養生活をおくるための会員相互の親睦を図り、リウマチ、膠原病の原因究明と治療法の確立と推進を図り、福祉の向上に努める」という目的をもとに設立された会です。
 各県に支部があり、会員の要望を国や地方自治体に陳情したり、専門医を呼んでの勉強会や医療相談会を開いたり、患者さん同士で体験談の交流や情報交換を行って相互に助け合って活発に活動しています。
 また『流れ』、『膠原』という機関誌を定期的に発行しており、最新の治療法や情報の発信、会員相互の連絡や質疑応答などが掲載されています。年1 回全国大会も開催されています。


■日本リウマチ財団
 膠原病も含めてリウマチ性疾患の制圧を達成するため、その予防、治療、研究の助成と知識の普及ならびに患者さんのQOL向上を支えることを目的として財団法人「日本リウマチ財団」が1987年に設立され、現在も活発に活動しています。1996年に「リウマチ科」の標榜が認められましたが、本財団の尽力の賜物と思っています。
 もっとも力を入れているのは、地域医療を充実させるための事業と、リウマチ医療を進歩させるための研究推進事業です。前者は、かかりつけ医(登録医)に最新の医療の進歩を伝える研修会やニュースを提供したり、リウマチ患者さんのケアの研修会を行っています。後者は、新しい治療薬の開発の評価のための治験推進を支援しています。また、広く一般の人々にリウマチのことを知ってもらうためのホームページも開設しています。